メンタルトレーニングは、いつ行うものなのでしょうか? たとえば、どうしても良い結果を出したい大切な試合があって、その試合に向けてメンタルトレーニングを取り入れるとしたら……?
答えは、「メンタルトレーニングで、解決したい課題や達成したい目標ができたときから」です。 早すぎることは、まずありません。 そのくらい、メンタルトレーニングの効果が出るまでには時間が必要なのです。
とはいえ、日頃からメンタルトレーニングをする習慣のないチームでは、「試合の直前になって、急にメンタルトレーニングを意識し始める」というようなことも少なくありません。 私自身が学生だったときも、ある大切なレースの2日前、先輩がメンタルトレーニングに関する本や新聞記事をたくさん持ってきてくれたことがありました。
「みんな、今日まででできる練習はやったのだから、あとはメンタルを鍛えるだけだ。 メンタルトレーニングの本を持ってきたから、明後日の試合で勝ちたいと思ったら、これを読むように!」
真剣な先輩の言葉を聞いて、素直な後輩(?)だった私は、すぐに読んでみました。 そこには「なるほど!」と思うようなポジティブな考え方や、トップアスリートの名言がたくさん載っていて、興味深く読んだことを覚えています。 しかし今振り返ってみて、その内容をすぐに習得し、2日で何かが変わったかというと…… 記憶に残るような効果は実感できなかったように思います。
確かに、たとえ試合の2日前だったとしても、やらないよりはやった方が良いかもしれません。 「自分はメンタルトレーニングをやったのだ」という安心感や自信が、プラスに働くこともあるでしょう。 しかし、メンタルトレーニングで本当に競技力を高めようとしたら、「ついで」や「最後の仕上げ」 として取り入れるだけでは足りません。2日前では間に合わないのです。
さらに言うと、「本を読んで知識を身につける」だけでは、自分自身のスキルとしては定着しません。 レースの前日に、それまでやってこなかったウェイトトレーニングを急にやり始めても、翌日に成果を上げることは難しいでしょう。 「上手な泳ぎ方を知っている」だけでは、そのフォームで泳げるようにはなりません。 メンタルトレーニングでも、新しいスキルを取り入れて、それを意識しなくても自然にできるくらいまでにマスターするためには、普段のトレーニングや日常生活の中で、繰り返し実践していくことが必要なのです。
このコラムを読んでいる皆さんは、「なるほど」と思う内容があったら、ぜひ日頃から試してみてくださいね! 次回はよくある質問の1つ、「緊張への対処方法」についてご紹介します。お楽しみに!
【学歴・資格】 2009年 学習院大学 文学部 心理学科 卒業 2011年 筑波大学大学院 博士前期課程修了(心理学修士) 2012年 臨床心理士 静岡産業大学にて講師を勤め、 現在はスクールカウンセラーや市民講座など受け持つ。 スポーツの現場では、メンタルトレーナーとして講習会や個別相談により、プロアスリートや大学生アスリートをサポート。 【トライアスロン】 2006年 日本学生選手権 準優勝 2010年 日本学生選手権 4位入賞 2011年、2013年 日本選手権出場 |