エアロハイドレーション戦争(更新版)

トライアスロンレースで、欠かすことができない種目として、水分補給(ハイドレーション)が挙げられる。近年、特にエアロ(空力)こだわったハイドレーション商品が、大変盛り上がり、トライアスロンユーザー向けに、新しい製品が続々登場している傾向にある。

だが、タイムトライアルバイクやトライアスロンバイクの普及により、それぞれのバイクによって空力目的を意識したフレームの形状が原因で、ボトルケージを付けられる箇所に限りがあったり、Cervelo P4の様に空力を考慮して作った専用のボトルが使いにくかったりと、色々と問題が発生しているのも現状だ。

トライアスロンバイク界で、多大なシェア率を誇る有名バイクブランドのCerveloは、ウィンドトンネル(空力テスト施設)で時間を費やしている。そこでは、他社ブランドのバイクフレームや様々なタイプのホイールを使用し、エアロ効果(空力)を比べて実験しながら、他に負けないバイクフレーム製作をしている。

このCerveloの実験の中で、重要視されていたのが、下半身とバイク、上半身とボトルに対するエアロ効果がどのように変わっていくかだ。トライアスロンの場合、レースの距離が長くなるにつれ、水分補給するためにボトルはいくつ必要なのか?サドルの後ろにハイドレーションシステムを付けた方がいいのか?エイドステーションで貰った水分をすぐに補給できる補給穴がついたドリンクボトルタイプが効率的なのか?それぞれのアスリートによって好みや使用の仕方で異なってくるのは事実だ。

ここでは、それぞれフロント部サドル後方フレーム部に、ボトルやハイドレーションシステムを取り付けることで、Cerveloが結論づけた空力の研究結果を元に、そこで発生するメリットとデメリットを紹介したい。

 

フロント部

 

 

 

 

 

 

 

 

フロント部(ハンドル周り)にボトルを取り付ける一番の利点は、目でどれくらい水分が残っているか確認できる。そして、フレームのダウンチューブやシートチューブに付いたボトルを、手を伸ばして取る面倒を省き、ハンドルやエアロバーを握ったままチューブを使って補給が可能になる点だ。

フロント部にボトルを取り付けることは、正面から当たる風に対して、大きな抵抗になるだろうと思われがちだが、完全無風という条件以外では、常に風は真っ正面(0度)の角度から吹くとは限らないため、斜めや横などのランダムな角度で風が衝突してくる。Cerveloの研究では、左右多方向から風を流し、そこで起こるドラッグ(抵抗)の値を数字に出して、比べている。

まず、現在フロント部に取り付けるボトル取り付け方法で、一番有力なのが二つが上げられる。

一つ目は、補給口とストローが付いる上に、エアロボトルというシャープな形状をしており、エアロバーの間に土台と一緒に取り付けて、縦にぶら下げるタイプだ。このタイプの場合、補給口がついてることで、エイドステーションで貰った水分を受け取って、すぐに補給口に流し補充できる点や、ストローが付いてるため、補給した水分を簡単に飲めるのが、一番の利点だ。アスリートによっては、この太いストローで吸う方が、飲みにくいということもあるので、一度試して見ることも必要かもしれない。

だが、空力テストの結果では、それぞれのバイクフレームのヘッドチューブが持つエアロ効果の妨げになり、エアロボトルを取り付けることで、乱気流(抵抗)が起きてしまうことがわかった。だが、通常のボトルをフレーム部に取り付けてる場合程の抵抗は起きない。そして、一番の妨げになるポイントは、ストローが飛び出ている部分だとわかった。

2つ目は、ボトルをエアロバーの間にそって横に取り付けるタイプだ。このタイプの空力テストの結果は、エアロバーの間に何もつけてない空間に、乱気流(抵抗)が起こりやすかった。だが、ボトルを腕の間に挟むことで、風をスムーズに後ろへ逃がしてくれるため、驚くことにボトルがない場合よりも、ボトルがある方が抵抗が軽減していることがわかった。

だが、このセットアップで起こる問題は、ボトルケージを付けるための土台が必要になってくることだろう。結束帯でしっかりと付けられれば問題はないが、実際やってみて、かなり手間のかかる作業で固定力に少し問題がでてくることもある。エアロバーの形状や幅によっては、ボトルの口を後ろ側にしなければいけなかったり、ボトルケージの種類によっては、取ることが困難な場合がある。

数年前は、この方法が流行っていなかったため、フロント部に付けることができる土台が市場に出ていなかった。だが、この情報が開示されたことによって、多くのメーカーが続々と新商品開発と販売をし始めたわけだ。

X-Lab Torpedo(トルピド)

 

 

 

 

 

 

 

 

マジックテープのストラップで、簡単にしっかり取り付けられるタイプ。土台もカーボン製で軽く丈夫な上、ボトルケージの取り付けも簡単にできる。 そして、専用のボトルケージも販売しているため、フロント部に付けたボトルの取りやすさも向上する。3度アイアンマン世界王者Craig Alexanderも愛用していた。

 Profile Design HCマウント

 

 

 

 

 

 

アイスの棒の様な2本の土台を、エアロバー間に橋を作り、結束帯で取り付けるタイプ。部品的にも無駄がない分、他に比べ土台の重さも軽い方が、エアロバーの形状や幅広さによって取り付けが困難な場合もある。

HED Lollipop

 

 

 

 

 

 

名前の通りLolipop(棒付きキャンディー)の様なデザインで、フォークのコラムについているスペイサーの代わりに取り付ける。ボトルの位置が、他のブランドに比べ、少し後方に位置しているので、手首周りにスペースが確保でき、ボトルも取りやすいのが特徴。2008年ハワイアイアンマン2位のスペイン代表Eneko Llanos(エネコ・ヤノス)選手も愛用。

Topeak ボトルケージホルダー

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、発見したおすすめのボトルケージ土台。商品としては、シティーバイクなど、ハンドルチューブ等にボトルホルダーを取り付けるために作られた物だが、エアロバーの片方に、斜め上方向に取り付ければ、フロントボトルケージ土台として使用が可能。

サドル後方

 

 

 

 

 

一般的に愛用されているハイドレーション取り付け方で、サドル後方にボトルケージホルダーを取り付けるタイプが人気だろう。X-Labを始め、Profile Design等多くのメーカーがこのタイプのケージホルダーを発売している。

ここで、サドルの後ろにボトルを取り付けることに関してのデメリットは、バイクを乗り降りする時に、足があったてしまうので、邪魔になり足をひっかける危険な点もある。

だが、レース中は乗り降りすることはないので、しっかりバイクスタートとフィニッシュで焦らず、落ち着いて乗り降りすれば問題ないことだ。

そして、もう一つは、ボトルケージの形状によって、地面の段差に差し掛かった際、反動でボトルが飛び出てしまう可能性もあることも確かだ。ケージホルダーの角度や、ボトルケージ自体の堅さや形状によっても、ボトルが取りにくかったりすることもある。後ろのボトルを取るために、片手を離さなきゃいけないために、段差等でふとした瞬間ボトルを落としてしまったり、落車したりという危険性も多少抱えている。そのため、固定力のある取りやすいボトルケージやそれに合うボトルのタイプを選択し、事前に練習することが必要となってくる。

こういうネガティブな事例が多い中、やはりこのタイプの人気は健在で、最低でもボトル2本とその他スペアタイヤや工具等を一緒に取り付けられる上に、バイクを乗ってる際にまったく邪魔にならないという点では、大きな利点があるのは確かだ。

だが、空力抵抗の面では、どういう結果が出ているだろうか。

実際、色々な角度やサドルからの前後上下位置で、研究は行われた。まず、ボトルホルダーをサドル後ろに付けないケースから行った場合、風が体を通過し、後方に差し掛かった際、乱気流が発生していることが、下の写真を見てもわかる。

この風の流れをスムーズに流すためには、サドル後ろにボトルケージホルダーを取り付け、ボトルケージ自体の横幅が狭くなるごとに、さらなる空力効果が発生する。そして、ボトルケージホルダーの位置と角度などを、上下や前後などで比較した時、大きな抵抗の違いは出なかったが、スペアタイヤや工具等がホルダーから飛び出ている部分では、抵抗が大きくなるのは明らかだ。

こういう結果から、ボトルケージホルダーをサドルの後ろに付けることは、デザインなど関係なく、風の抵抗を軽減することは確かであり、逆に取り付けた方が有利になる点が確認されている。

そして、一番効率的な取り付け方は、サドルの後ろにボトルケージを結束帯で取り付ける(元祖Chris Lieto流)が最近多く見られている。最速のバイクラップを毎年ハワイ世界選手権で出すChris Lietoの影響力から、多くのプロ選手が採用してることもある。

 

 

 

フレーム部

特にロード系のバイクフレームに関して、ボトルケージ設置するためのボルトは、フレームのダウンチューブやシートチューブに両方とも装着可能な配慮がされている。だが、タイムトライアルやトライアスロンバイクに関して言えば、ダウンチューブしかボトルケージの取り付けが出来なかったりというケースも出てくる。

そこで、Cerveloは、ダウンチューブ、もしくはシートチューブに、ボトルを付けない場合と普通の丸いボトルを付けた場合、そしてエアロボトルを付けた場合の数ケースの空力効果をテストした。

ボ トルケージをまったく付けないで、フレーム自体の空力効果を試した場合、やはりボトルがあるよりも、付けない方がフレーム自体がもっている空力効果を最大限に活用してくれる。だが、Cervelo P4に関しては、専用のエアロボトルが付いているので、付けた方が断然空力効果は増すことがわかった。

そして、普通のドリンクボトルをダウンチューブに付けた場合、どのブランドのバイクフレームもシートチューブに付けるよりかは、空力効果はより良い。だが、ボトルを付けない場合と比べてみると、40から50グラムのある程度の抵抗を生むこともわかった。

(注:Giant Trinityに関しては、ダウンチューブにはボトルケージは取り付けられないが、一応テストのためテープで固定している)

次に、エアロドリンクボトルで試した場合、それぞれのバイクフレームには、Arundelのエアロドリンクボトルを、それぞれダウンチューブとシートチュー ブに使用しテストした。Cervelo P4に関しては、すでに専用のエアロボトルが採用されているが、これをArudelのエアロドリンクボトルに取り替えてみると、やはり抵抗が17グラム増してしまう。

他のブランドのバイクフレームに、エアロボトルを付けた場合、普通の丸いボトルを付けた場合よりも、半分程の抵抗になるとわかった。それぞれのフレームで、エアロボトルケージを取り付ける位置も、ダウンチューブやシートチューブによって抵抗の差が変わってくる。そこで、ベストポジションで抵抗が少ないエアロボトルのセットアップは、下の写真が推奨している。

写真を見た通り、フレームの形状により、空力効果が変化し、その際エアロボトルケージをつける位置で、多少の空力抵抗の違いが発生する。そして、一番の有効な手段は、フレームとボトルケージ周りのギャップ(隙間)をいかに少なくするかで、さらなる空力の抵抗を減らすことができる。

結果

3つのカテゴリーでそれぞれ空力の面でどれだけの効果がでるか紹介してきたわけだが、実際は空力の中で発生する抵抗の単位というのは、もろに風が当たる身体 に比べれば、ボトルケージへの抵抗は、断然少ないのはわかる。そして、風は常にいろんな角度を変えて向かってくるもので、このCerveloの研究結果 は、プロやエイジグループのアスリートに関係なく、距離が長くなりスピードが上がるごとに、何秒かの差で、多少の効果は実際のタイムに出てくるものだと感じている。

実際、Cerveloがこの空力実験を行ってることで、Cerveloのバイクフレームに関して、大きなメリットがあり、一番良いように聞こえてしまうが、他社のバイクがそういった空力の面で負けていると直結しているわけでは当然ない。

やはり、所有しているバイクフレームでいかに、抵抗の少なく、安全で補給のしやすいボトルケージ設置の位置決めで、悩んでしまう場合もあるだろう。そういった場合、トッププロ選手等のバイクのハイドレーションを真似することも一つの方法だ。

実際、トッププロの多くの選手は、空力テスト施設で、自身のバイクポジションやバイクセットアップを、プロの空力エンジニア達と研究しながら、ベストなポジションとバイクのセットアップ(ボトルケージの位置)を探っている。所有するバイクと同じフレームに乗っているトッププロ選手の真似をすることも悩みの解決方法になるかもしれないだろう。

新製品

影響力のあるCerveloの研究結果を元に、そういう事情を把握した関連ブランドが、新しいタイプのトライアスロンバイクの傾向に合わせるために、続々 と新しいエアロボトルケージやエアロボトルの商品開発をしてきた。2012年に注目の商品をいくつかピックしてみたので、紹介していきたい。

Torhans Aero Bottle

 

 

 

 

 

 

 

去年のハワイ世界選手権に出場した多くのプロが使用していた比較的新しいブランドだ。実際見てみると、Profile DesignのAquaFilと見た目は似ているが、Torque独自の研究結果では、下記の空力結果が証明されている。

(一 番左から、Torhans Aero 20、 Trohans Aero 30、 Xlab Torpedo、 Profile Design AquaLite,、Profile Design AeroDrink、 Pofile Design Aquacell、 シートチューブとダウンチューブ両方に普通のボトル、ダウンチューブだけ普通のボトル、SpeedFilハイドレーションシステム、Speedfil15 角度から)

あのChrissie Welilngton等、多くのプロ選手がこのタイプのエアロドリンクボトルを採用し使用していた。Cerveloの研究結果とは対象的に、どのポジションのエアロドリンクボトルと比べても、風の抵抗は一番低いということを実証している。

2 種類のボトルタイプが出ており、内容量650mlと887mlのエアロボトルが出ている。設置は、Profile Designのエアロボトル同様に、専用のハンガーを付ければ簡単に付けることができる。そして、一番の違いは、エアロドリンクボトル自体の形状もあるだ ろうが、ストローの部分がしっかり固定しており、空力効果を見据えてた形状をした物になっていることだろう。これからとても注目のブランドである。

Speedfil A2

2012年注目のフロント部のエアロバー間に取り付け、ホースの様なストローが付いており、開け閉めが出来る補給口も付いてる新しい形のエアロボトルとして、Speedfil A2という製品が発売されている。

 

 

 

 

 

 

 

2011年アイアンマン世界選手権でも、数名のプロが使用しており高い評価を得ている様だ。

だ が、エアロバーの幅や角度がブランドやポジションによって違うこともあり、頭の部分が邪魔になることもある。その場合は、向きを反対にする等対策はある が、ヘッドチューブ上に補給する口がくることによって、レース中に飛び散った水やドリンクがステムやステムのヘッドの部分へかかることが懸念される。

日本では、代理店がないため、国内で購入することは難しいが、海外のショッピングサイトで注文すれば手にいれることは可能。

X-Lab Delta Wing

ア メリカ代表のChris Lieto選手が、レースバイクのサドルの後ろに、ボトル1本取り付けてるのが印象的である。スポンサーであるBontragerが独自で作っているボト ルホルダーと思いきや、実際はただ結束帯で自分で留めてあるリエトのオリジナルシグネチャーである。2011年は、リエト選手が所属するTrek-Kswissチーム内でもこのスタイルが流行る中、そしてあのCraig Alexanderも同じ手法をし始めた。

今までは、結束帯で自分でサドルの後ろに取り付けなければならないため、試行錯誤しつつも、固定力がなかったり、シートポストの形状から取り付けが難しかったりと問題があった。

だが、Xlabから出されるDelta Wingに関しては、取り付け部分がノーズ状に長くできており、結束帯等不要で、サドルのレールに、今までのXlabのボトルホルダーと同じ要領で簡単に取り付けられる。そして、ボトルの横には、CO2ボンベ等を取り付けることも可能だ。

yuki_prof_o YUKI (ユーキ)
現住地:米国テキサス州
略歴:
2008年:米国在住中に、海外トライアスロンレースやトライアスロンマーケットの面白さに夢中になる。
2010年:トライアスロンショップ「メイストーム」でメカニックやストアマネージメントを学び始める。
2012年:日本初世界のトライアスロン情報を伝えるサイト「TriWorldJapan.com」を立ち上げる。
2013年:トライアスロンスクール「サニーフィッシュ」で、バイクとランのアシスタントコーチ担当。
2015年:トライアスロン雑誌「ルミナ」にて毎月記事を掲載し始める。現在、サニーフィッシュ新規事業部所属し、サニステコラムニストとして色々な情報を発信中。