Zipp x Sramプロダクトムーブメント

サイクリングマーケット問わず、トライアスロンマーケットでも、アメリカ発の歴史のあるホイールメーカーZipp(ジップ)は、多くのアスリートに長年愛され続けてきた。2007年11月には、同郷アメリカ発サイクルコンポネント会社Sram(スラム)に買収され、Sramのブランド下となり、製品の幅を広げ、新商品への開発に力を注いできた。

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競争が激しいとされる、サイクルコンポネントマーケットに位置づいているSramだが、自国アメリカのバイクショップ取り扱い数やMTBバイクでの使用率は高いものの、サイクルコンポネントでナンバーワンのShimanoに比べれば、トライアスロンマーケットでの総合的な使用率の低さは、アイアンマンハワイ使用率から見ても、Shimano使用数の1/3にしかならない。

しかし、そのデザイン性や軽量さの面では、他のブランドに負けないくらいの商品ラインナップを持っている。例えば、シフトレバーが、常に定位置に戻る設計をしているSramR2C (Return to Center)エアロデザイン・バーエンドコントロールや、最軽量にこだわった11速Sram Red 22シリーズ等、他のブランドに出遅れない様なマーケット展開を繰り広げてきた。

 

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そのSramのブランド下にいるZippも、ホイールの開発に、多大な力を注いできた歴史がある。特許を持っているゴルフボール表面の様なディンプル加工されたデザインや、業界初のディープ/ワイドリムホイールFirecrestの発表等、そのアイデアや開発力は、他のブランドやメーカーに大きく影響を与え続けてきた。このホイールマーケットリーダーとして、アイアンマンハワイ世界選手権でのシェア率にも、大きく反映されている。2013年ホイール使用率では、52.38%という半数以上のパーセンテージを証明している。


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そこで、この大きな二つのブランド力が、次に力を入れ始めたのが、やはりトライアスロンマーケットをターゲットに絞るプロダクト展開だ。 その一つは、これまでZippが展開していたエアロバー(DHバー)商品のVukaシリーズのリニューアル、そして、もう一つは、最近トライアスロンレースで使用が目立つ、フロントドリンクシステムのアクセサリー商品の展開だ。

Vukaシリーズ

アイアンマン世界王者のオーストラリア代表Chris McCormack(クリス・マコーマック)、3xアイアンマン王者のアメリカ代表Jordan Rapp(ジョーダン・ラップ)、IM70.3レース転向した北京五輪金メダリストのドイツ代表Jan Frodeno(ヤン・フロデノ)等、多くの著名スポンサープロアスリート抱える中で、彼らからのフィードバックを元に、2013年から新しいVukaエアロバーシリーズに、大きな注目が置かれている。

これまで発売されていた初期VukaエアロバーシリーズであるVuka Aero(一体型エアロバー)やVuka Bull(ベースバー)、Vuka Clip(エアロバー)は、カーボン素材のハイエンドモデルのみで展開され、価格的にも、カーボン素材のため高級なパーツであった。調整幅も、パッド横幅、エクステンションバーの前後、エアロバーの角度のみと限られていた。特にTT/トライアスロンバイクの場合、エアロバーでのバイクポジションを取るのが、重要な要素でもあり、バイクフィティングする面で、バイクのジオメトリーに合わせにくい、困難なエアロバーの一つとされていた。

しかし、去年発表された、ハイエンドモデルのVuka StealthとローエンドモデルVuka Aluminaの登場は、Zippにとって大きな一歩となる商品となった。一見では、その変化はわからないが、新しいVukaシリーズは、共通して、その使いやすいと調整幅の広さが2倍以上にもなった。パッド前後幅、パッド横幅、パッド高さ、パッド角度、エクステンションバーの種類、長さと幅、パッド角度と、幅広くこだわる調整域の変化をもたらした。

パッド高さに関しては、10mm、25mm、50mmのスペーサーを入れることで、好みの高さにパッド位置を調整出来る。例えば、ステムの高さが足りない場合でも、このスペーサーを入れれば最大で50mmまで、エアロバーの高さを加えることができる。


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パッド前後位置は、+/-50mm調整可能で、下記の写真の様に、5つの位置設定ができる。パッドの前後位置で抱える問題で言えば、ステムが一番短い50mmのものにしても、パッドリーチ(BBから垂直線上のパッドまでの距離)が足りないという場合でも、+/-50mmまで前後幅を調整できるので、さらに50mm後ろにパッドを移動できることが可能になる。


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肩の広さによってパッド幅がそれぞれ変化してくるが、このVukaシリーズは、パッドセンター幅148mmから228mmまで調整可能で、それ以上広いパッド幅が必要な場合は、別売りのパッド台座Vuka Extension Wingを取り付ければ、さらにパッド幅をさらに広げることができる。


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Vuka Alumina
に関しては、エアロバーが一体型ではない、クリップオン式のエアロバーなので、ハンドルベースバー間に余裕があれば、取り付け位置を広く移動することで、さらに幅広い調整が可能となるだろう。だが、270mm以上パッド幅を広げてしまうと、ハンドルを持つ際に、腕があたってしまうので、それ以上にパッド幅を広くすることは、かなりレアなケースだろう。

パッド自体の横角度も、好みに変えることができるのも、このVukaシリーズの大きな特徴だ。パッドには、4つの縦2つ穴が並んでおり、好きな角度へ調整することが可能だ。そして、パッド台座自体も、上下移動するので、それを加えて調整すれば、細かいパッド横や角度調整が可能だ。このVukaシリーズのパッドは、他ブランドに比べ大きいため、その分腕にかかる重心をしっかりと支えてくれる安定感のあるライディングができる。

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エクステンションバーは、スキータイプ、レースタイプ、Sram R2C用レースタイプ、ストレートタイプと4種類の形状の中から、さらにカーボン素材とアルミ素材(スキーとレースタイプのみ)にわけ、6種類で展開している。そして、エクステンションバー先端とパッド間の長さも、ボルトを緩めるだけで、簡単に前後移動可能である。

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Vuka Stealth

カーボン素材を使ったハイエンドモデルであるVuka Stealthは、スタイリッシュなデザインと共に、軽量で最大限のエアロダイナミクスを追求した商品になっている。ステムとベースバーが一体型になっているので、ステムサイズが、SMLで選択し、現在のバイクジオメトリーに合うステムサイズを選び出す。この作業を簡単にできる様に、ZippのウェブサイトにあるVuka Fit Softwareツールという公開アプリを使用し、バイクジオメトリーを打ち込めば、そのポジションにあったサイズが、最後に表示される。このステムには、+10mmのスペーサーもあり、長さを出したい場合は、このスペーサーで細かい調整が可能だ。

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Vuka Stealthのベースバー裏には、ガーミン専用の台座を取り付けることのできるボルトが着いており、ガーミンユーザーにとっては、メーターを付けることが難しいステム一体型デザインなのでしているので、かなり助かるアイデアだ。

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Vuka Alumina

価格的にも、Vuka Stealthよりも、半額以下で設定してあるアルミ素材を使ったVuka Aluminaシリーズには、2種類のクリップオンタイプがあり、エクステンションバーが、ハンドルベースバーの上、もしくは下から出ているハイとボトムマウントで分かれている。基本的には、トップマウントの方が上下調整が可能で好まれているが、かなりアグレッシブな低いポジションを出したい人は、ボトムマウントを使用するとさらにパッドの高さを低くすることができる。

vukaaluminahighandlowmountロードバイクのポジションの様なハンドル(ブレーキの握り)位置に合わせたい場合は、ステム調整とコラムスペーサーで、ハンドルベースバーの前後と高さの位置を決めた後に、このVuka Aluminaのクリップオン式のエアロバーを使えば、エアロバーを握った時のポジションを、両方とも出しやすくなる。パッド幅や高さ、角度等を細かく調整すれば、パーフェクトに近いタイムトライアルポジションの調整が可能になり、いままでのエアロバーは、すべてが一体型だったり、どこかで妥協しなければならない調整部分があったが、このVuka Aluminaは、その妥協点を細かく取り除いているのが特徴だ。

デメリット

これからのZipp特有のスタンダードになっていく様で、ボルト穴が、すべて星形のトルクスレンチT25タイプが必要だ。六角レンチで締めるとネジ穴が確実になめることになる。なぜ、このボルト規格を採用したかというと、カーボン素材のハンドルベースバーやエクステンションバーを取り付けた際に、力を入れ締め過ぎた時のひび割れ防止や、近年このタイプのボルトが、チェーンリングやシフター等に、使用されることが多くなっていることが理由だ。

そして、シフトワイヤーが、エクステンションバーの内部を通っていることで、かなりすっきりした構造に見えるが、パッド位置を、25mm以上前後したい時は、一度シフトワイヤーを抜き取り、パッド台座を移動しなければならないのが、かなり苦である。なので、一度パッドリーチ(前後位置)のポジションを出した上で、組上げることを進めている。もし、これが電動コンポネントなら、エレクトリックコードを、コントロールボックスから抜き取るだけなので、その作業はかなり簡単になるだろう。

BTAアクセサリー

3月のIronman 70.3 Oceansideで、Zippスポンサーライダーであるドイツ代表Jan Frodeno(ヤン・フロデノ)やアメリカ代表Ben Hoffman(ベン・ホフマン)が使用していたニューアイテムであるBTA (Between the Aero Bars)マウントが、大きな注目を浴びている。先月下旬に発売開始されてから、かなりの売れ行きを見せているトライアスリートのために作られたZippならではの商品だ。今回、このハイドレーションマーケットへ挑戦するZipp Alumina BTAマウントは、調整の適応性、使い易さ、デザイン性にこった、商品となっている。

このBTA専用ボトルケージ開発きっかけになったのは、長年Zipp/Sramスポンサーであり、メカニカルエンジニア専攻卒としても、大きな影響力のあるアメリカ代表Jordan Rapp(ジョーダン・ラップ)が、ZippSramのエンジニア達に、この商品のアイデアを伝えた所から、本格的な開発が始まった。

これまでのXlabProfile DesignSpeedfill等のブランドが、BTAハイドレーションマーケットを独占してマーケットを盛り上げてきた。だが、これらのブランドにも、所々問題点があり、Xlab Torpedoは、台座をエアロバーに取り付ける際に、ベロクロストラップ(マジックテープ)の付けにくさや固定力の弱さ、メーター台座を中心に位置づけることが難しい点。Profile DesignHCマウントは、3TBontrager等の一体型のエアロバーは、エアロバーのセンター間幅が85mm以下で狭く、付けることができない点。そして、Speedfilが出している、ステムのトップキャップに取り付ける台座の場合、ボトルを取り外す時に、力を加えて、横に曲がってしまったり、ボルトが緩んで動いてしまうという症状もあった。

そこで、Jordanが大きく提示したアイデアの一つに、現在主流であるメーター台座付きのBTAマウントを、さらに使いやすい様に、開発できないかということだった。BTA台座を装着すると、ステムやエアロバーの上に、サイクルメーターを付けることが困難であり、見えにくい面で、他のブランドもそれに対応した台座やアダプターを開発してきた。

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今回Jordanや他のアスリートからのフィードバックを考慮し開発された、Zipp Alumina BTAマウントは、硬化合金素材で作られており、耐久性もり、重量(104g)で軽量だ。この台座は、星形トルクレンチでボルトをしっかりとめるタイプで、固定力に関しては問題なく、マニュアルには、エアロバーのセンター間90mmから150mmまでと記載しているが、メジャーで測った所、センター間位置を最小70mm動かすことができた。ということは、3TBontrager等の一体型の80mm以下の間隔が狭いエアロバーでも、取り付けることが可能だ。

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Xlab等のベロクロストラップで留めるTorpedoマウントは、しっかりとエアロバーの中心に合わせることが難かしく、固定力にも不安があったが、Zipp Alumina BTA台座には、マウント横ににメモリがついているので、それを基準にしっかりとセンターを合わせ、六角でしっかり留められるので、固定力の面では抜群だ。

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メーター台座は、下から突き出る様に、ボトルやボトルケージに邪魔されない様に配慮した形状をしている。このメーター台座自体は、固定されており、前後させることはできないが、ボトルケージの穴幅で前後調整できるので、台座がボトルにあたることはないだろう。メーター台座は、1/4ターンのガーミン対応で、ほとんどのEdgeシリーズ等を使用できるものの、910XTに関しては、クイックリリースキットを使うと、ガーミン側についている台座が、邪魔になり、取り付けるのが不可能に近い。そこで、クイックリリースキットに同封されている台座を、そのままつけてあげれば、その問題も解決するだろう。

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台座を取り付けた後、ボトルケージとメーター台座の設置は、基本的に2パターンある。まず一つは、メーター台座を前方に出し、ボトルケージを前後反対につけること、そして、もう一つは、メーター台座を手前につけ、ボトルケージを前向きに付けるということだ。

zippbtamountingstyle1そして、先日Ironman 70.3 St George大会で優勝したドイツ代表Jan Frodenoは、また面白い取り付け方をしていた。ボトルケージを下向きにつける斬新なスタイルだ。この方法にしたのは、スポンサーバイクのSpecialized Shivに付いているフレーム内蔵ハイドレーションバッグのホースが邪魔にならないように、クリーンなコクピットを作るため、ボトルケージを下向きにつけたのだと思われる。

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これと同時に開発されたのが、BTA専用ボトルケージだ。去年発売されたSL Speedボトルケージは、アルミ素材(27g)とカーボン素材(18g)の2種類で展開されており、どのアングルからでも、フレームから取りやすいことを意識したデザインで、多くの好評価を得ていた。そして、今回発表されたこのBTA専用ボトルケージは、カーボン素材(28g)での発表だが、段差などの衝撃で飛ばない様なしっかりとしたホールド感と、その固定力で妥協しない取りやすさも兼ね備え、エンジニアのアイデアを駆使して、DHバー間のハイドレーションに使用するのに、最適なデザインで考えられている。

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ホイールだけに集中したマーケット展開ではなく、トライアスロンマーケットにもその目を向け、多くのアスリートからのフィードバックを中心に、開発されてきたこのVukaシリーズは、多くのアイデアを詰めた商品として大きな注目をされている。そして、先日発表されたBlootoothANT+を使用することを目的にしたワイヤレス電動コンポネントのプロトタイプ等、その斬新な商品と共に、常に将来を見通したデザイン性や利便性を求めた開発を進めている。これからのこのSramZippのタッグを組んだことで、どれだけ素晴らしい商品をこれから発表してくるかが、大きな期待である。

yuki_prof_o YUKI (ユーキ)
現住地:米国テキサス州
略歴:
2008年:米国在住中に、海外トライアスロンレースやトライアスロンマーケットの面白さに夢中になる。
2010年:トライアスロンショップ「メイストーム」でメカニックやストアマネージメントを学び始める。
2012年:日本初世界のトライアスロン情報を伝えるサイト「TriWorldJapan.com」を立ち上げる。
2013年:トライアスロンスクール「サニーフィッシュ」で、バイクとランのアシスタントコーチ担当。
2015年:トライアスロン雑誌「ルミナ」にて毎月記事を掲載し始める。現在、サニーフィッシュ新規事業部所属し、サニステコラムニストとして色々な情報を発信中。